ALSとはどんな病気?
ALSの症状と生活の変化
筋萎縮性側索硬化症の病状の進行
経過と医療・療養環境
食事・嚥下
飲み込みが悪くなり、むせることが増えてきた場合には、言語聴覚士による嚥下(えんげ)の評価・指導を受け、食事の形態の工夫や嚥下方法の工夫などを行います。さらに病状が進行し、経口での食事摂取が難しくなった場合、胃瘻(いろう)を造設することをお勧めします。胃瘻(いろう)とは腹部の外側から直接胃に細い管を通し、流動食などを入れるための通路です。胃瘻を造設する際には入院が必要になります。入院は、胃瘻造設の手術と流動食の導入も含めて、約1ヶ月が必要となります。これは胃瘻の手術による影響で腸管の動きが悪くなったり、腹膜炎を起こしたりしないように経過を観察する期間と、流動食に徐々に慣れていただくための期間が必要だからです。胃瘻造設時の注意点は、造設後に呼吸状態が急に悪化することがあるため、呼吸状態があまり悪くならないうちに手術を行う必要があります。また、手術は栄養状態もあまり悪くならない内に行った方がいいと思います。
吸引
多くの患者さんは嚥下障害が出始めたころから口腔内の吸引が必要になってきます。吸引には口腔内のみの場合と気管内まで必要な場合があります。しかし、病状が進行すると気管内まで吸引が必要になります。口腔内吸引は、口腔内に唾液が溜まり、誤って気管の方に飲み込んでしまわないように、口の中の唾液を吸ってあげます。吸引の操作は慣れてしまえば、大変なことはありません。とくに、口の中は、もともと細菌がいる場所ですので清潔な操作は必要ありません。気管内吸引は後述しますが、清潔動作が必要であり、口腔内とは異なりますので注意が必要です。
吸引行為を行えるのは、法律上、原則は医師や看護師等の医療従事者の一部と家族にしか認められておりません。ホームヘルパーは一定の条件を満たせば、在宅において吸引行為を行うことができるようになりますが、現実的には在宅では家族が主に行うことになります。そのためご家族は吸引の方法や技術を習得する必要があります。吸引器購入は身体障害者手帳を取得している方は日常生活用具として給付を受けることができる場合があります(所得に応じて自己負担金があります)。それには身体障害者手帳を呼吸器障害3級もしくは診断書を提出して同程度と認められる必要があります。申請窓口は市町村障害福祉担当課になります。吸引器は停電や災害時の時のことを考え、充電式のものをお勧めします。
以上のような生活状況が変化していく間、かかりつけ医や病院主治医は病状の進行を観察するだけではなく、状況に応じて、予測される症状や状態を、患者さんやご家族に説明していきます。上述の嚥下障害や構音障害もこうしてお話しする事項ですが、呼吸障害と関連して、人工呼吸器の問題は大きな問題となります。むろん、一度の説明だけではなく、患者さんやご家族が納得のいくように何度でもお話をすることとなります。人工呼吸器はどんなものか、装着するとどんな生活になるのか、どんなことが不自由になってくるのかなど沢山お話ししなければならないことがあります。最終的には、患者さんの決定に従って、私たちは患者さんの望まれる医療を提供します。
人工呼吸器を装着すると決めた場合には、呼吸状態を観察しながら、気管に穴を開けて、カニューレという管を入れる手術(気管切開)の後、人工呼吸器を装着します。人工呼吸器装着後は、患者さんご自身が人工呼吸器になれていただくとともに、在宅療養に備えて、ご家族に様々なことを覚えていただきます。簡単な人工呼吸器のメカニズム、トラブルの対処法などに加えて、気管切開に伴い、気管内吸引の方法や気管カニューレの処置などについて、医師や看護師から指導を受けていただくことになります。この期間はおよそ1ヶ月程度が必要です。特定疾患治療研究事業を申請していらっしゃる場合は、人工呼吸器を使用されても、医療費の負担が増えることはありません。また、停電や災害等に備えて外部バッテリーを購入する場合もあると思いますが、静岡県の一部の市町村の場合、購入のための費用を補助する制度があります。
人工呼吸器を装着しないと決めた場合には、呼吸困難に対する対処法などを決めた上で、在宅あるいは、入院の継続を行ないます。在宅療養の場合には、かかりつけ医の先生と病院主治医が役割分担を決めなければなりません。入院継続の場合には、病院によっては、転院の必要があることも出てきます。こういった問題は、医師や看護師と相談するだけではなく、各病院の医療相談の窓口で相談していただいた方がいいと思います。
以上は、典型的な患者さんでの大まかな経過です。こういった経過に当てはまらない方もたくさんいらっしゃいますし、病院や地域によって事情が異なってきます。したがって、受診先の医師や看護師、あるいは、ソーシャルワーカーにご相談しながら、ご自分の意志を決めていっていただきたいと思います。あくまでも、主人公は患者さんご自身なのですから。
■共同執筆 国立病院機構静岡てんかん・神経医療センター |
| | 統括診療部長(神経内科)溝口功一先生 |
| (当時 同上) | ソーシャル・ワーカー 中山照雄氏 |
